2017年9月28日にフジテレビで放送された『とんねるずのみなさんのおかげでした30周年記念スペシャル』で、お笑いコンビとんねるずの石橋貴明さんが扮するキャラクターである保毛男田保毛尾が復活した。このことはネットを中心に、同性愛をネタにしていると視聴者やLGBT関連団体から苦情や批判が殺到し、抗議文を送るなどしてフジテレビが謝罪する大きな事態となった。
このように、30年前当たり前であったTVキャラクターが今となっては差別的であると問題視される事態となっている。
近年の権利獲得に向けた活動の活発化などにより、その存在が知られるようになったLGBT。私たちは、メディア特にテレビでは、LGBTの人たちの本来の姿、彼らの立場や意見は十分に反映されているのか、現状の問題点と今後のテレビのあるべき姿を探っていく。
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研究にあたり、私たちは3つのリサーチクエスチョンを立てた。1つ目は、番組にはどのようなLGBT(属性)の人たちが出演しているか。2つ目は、テレビの中でLGBTの人たちはどのような存在として表象されているか。3つ目は、番組内容やテーマにおける傾向・問題点はなにか。最後の1つはドキュメンタリー番組の分析におけるリサーチクエスチョンとして設定した。
※以下、RQ1・RQ2・RQ3と記載
方法と対象について、まずはバラエティ番組、ドキュメンタリー番組、福祉番組を対象に出演者の属性や傾向といった番組内容分析を行った。また、4名のLGBT当事者の方々に協力していただき、ヒアリング調査を行った。当事者の方々には、性的マイノリティとしてのメディア経験、テレビでの性的マイノリティの映され方、今後のテレビに期待することを質問項目として、インタビュー形式でヒアリングも行っている。
バラエティ番組におけるLGBTの取り上げられ方
まずはバラエティ番組である。
対象とした番組は、10名以上のオネエと呼ばれるタレントが出演していた代表的なひな壇バラエティ番組である、「ロンドンハーツ」と「ダウンタウンDX」である。
RQ1について、この2つの番組では、出演者の属性はゲイが多く、レズビアンは1人もいないという結果が出た。
続いてRQ2に移る。先行研究やヒアリングによると、「メディアで同性愛者が描かれるとき、“普通の人ではない”という演出が執拗に行われる。」ということや、「LGBTが笑いの対象・イロモノとして扱われている。」という指摘がなされていた。このことから、私たちはテレビにおけるLGBTの人たちの表象は「差別や偏見を助長しているのではないか」と考えた。
さらに、ヒアリング対象者は「小中学校の頃に見ていた番組では、セクシュアリティの扱い方が、お笑いや蔑むような形での表現だったので、正直見苦しかったっていうのがあるんですね。そういうのを見ると、同級生たちが学校で真似をするんですよ、お前はホモだ!って。だから、それでテレビを見なくなった時期があるんですね。」と語った。実際に、2015年には一橋大学の院生が、同性愛者であることを同級生に暴露されたことをきっかけに自殺をしてしまったという事件も起こっている。
以上より、LGBTはバラエティ番組の中で、笑いの対象・イロモノとして扱われている。このことが一因となり、事実とは異なるイメージをもたれた当事者が、苦しんだり、いじめにつながることがあるということが分かった。
ドキュメンタリー番組におけるLGBTの取り上げられかた
続いて、ドキュメンタリー番組である。NHK、民放の主要な番組について、過去五年分(2012年1月~2017年10月)の対象番組と放送回数を調査した。
調査(図1 対象番組一覧)
結果をまとめた表(図1)を見てみると、『テレメンタリー』(テレビ朝日)、『報道の魂/ザ・フォーカス』(TBS)はLGBT関連の放送が一度もされておらず、『NNNドキュメント』(日本テレビ)、『FNSドキュメンタリー大賞』(フジテレビ)、『クローズアップ現代+』(NHK)などは放送していても五年間のうちわずか1,2本しかないため、極めて少ないことがわかった。
以データを踏まえ、今回の研究では『NNNドキュメント』(日本テレビ)、『FNSドキュメンタリー大賞』(フジテレビ)、『クローズアップ現代+』(NHK)の内の三本を対象とし、内容分析を行う。
では、RQ1に移る。対象番組三本に登場下人物を調べたところ、以下(図2)の通りになっている。レズビアンが3人、ゲイが4人、トランスジェンダーが6人がそれぞれの番組で登場しており、比較的バランスが取れていることが分かる。(2)
続いて、RQ2に移る。「わたしはLGBT」ではナレーションで「誰も受け入れてくれない孤独…」というように表現したり、「パーソナリティ始めました~インターネットラジオに託す夢~」では“普通”の存在として認識してもらうために奮闘する姿を描いたり、「“家族”と認めてほしい ~同性パートナーシップ承認の波紋~」では暗く、辛い現実をイメージさせるBGM、イメージ画像を使用したりと、ドキュメンタリー番組ではLGBT当事者を「弱者」、「かわいそう」だと捉えられる表現がみられた。
続いて、RQ3に移る。ヒアリング調査によると、B氏はドキュメンタリー番組について「社会課題として、その人たちの生活をもっと見ようよというような番組では、なんとなくかわいそうな文脈で語られています。」と語り、またC氏は「苦しんで生活している現状しか映さないし、今後のビジョンが全く描かれていない。」と語った。これらを踏まえて、対象番組の三本の中から「わたしはLGBT」をみていくと、ナレーションは「就職、カミングアウト…次々に立ちはだかる壁、一体どうやって乗り越えるんだろう。」、「もし、あなたの子供や大切の人が突然LGBTを打ち明けたら、あなたは受け止めてあげることはできますか。」と語っている。ドキュメンタリー番組でよく見られる問いの投げかけのみで、シーンが終了していた。従って、番組では解決策が提示されていないということがわかった。
福祉番組における取り上げられ方
続いて福祉番組である。今回の対象番組は、ヒアリング調査でも名が挙がったNHKで毎週月曜~木曜、20時~20時29分に放送されている『ハートネットTV』とし、期間は過去5年分2012年1月~2017年10月とした。
まずはRQ1について対象期間に放送されたLGBT関連27本のうち直近10本分の登場人物の属性を調べた。レズビアンが2人、ゲイが6人、トランスジェンダーが5人、その他が3人とバラエティ番組のように大きく偏ることなく、バランスが取れていることが分かった。
続いてRQ2について、2015年4月30日に放送されたWEB連動企画“チエノバ”「LGBT “理解者”になれますか?」の回を調査した。登場人物は女性の身体で、心は男性でも女性でもない性を持つFtXであり、そのことを会社に入る時からオープンにしてきた。番組内では「女性、男性ってするなら女性の領域ではないっていう感じで正直定まっていないです。」、「自分のことを分かってほしいならまず相手のことから分かろうとして距離を縮めていくのが自然の流れじゃないかなと思う。」と語り、LGBTの人を弱者としてではなく、明るく前向きに自然に生活する姿が映されている。福祉番組でのLGBTはイロモノや努力する姿を描かれることなく、社会で“普通の人”として実際どのように受け入れているのかを描いていた。
しかしNHKEテレの視聴率データによると、『ハートネットTV』が放送されている平日夜8時から8時29分の時間帯は、平均視聴率が0.5%程度しかなく非常に低くなっている。このことから番組の視聴者自体が少ないため、内容がありのままの姿を映していても社会への認識が広がらないという問題点が見られる。
研究のまとめ
これらを踏まえて、テレビ番組には、LGBTの人たちの本来の姿、彼らの立場や意見は十分に反映されていないことが分かった。それでは、これからのテレビはどうあるべきか。具体的な今後の対策を示し、私たちの提言とする。
1. タレント・有名人がカミングアウトし、LGBTが特別な存在でないという認識を広げる。既にテレビ業界、スポーツ業界など社会で活躍している有名人がLGBT当事者であるとカミングアウトすることで、テレビの中にロールモデルを映すことができる。
2. LGBTタレントが「LGBT」であることを売りにしないで活躍できる場を作る。
アメリカでは、レズビアンのタレントが人気番組の司会者として活躍している。彼女は奇をてらった格好をしているわけではなく、ごく自然な姿でタレントとしての人気を集めている。そのようなタレントが日本でも活躍できる環境を作ることが必要である。
3. ニュース・情報番組のコーナーや特集で積極的に取り入れる。
視聴率が低い時間帯に番組を放送するより、多くの人の目に触れるニュース・情報番組で取り上げる方が、社会への認識を広げることにつながる。
4. 視聴者として、ステレオタイプ表現や作為的な演出に対し、批判的な視点を養う。
番組の表現や演出に惑わされないよう、それらを鵜呑みにせず、我々視聴者がメディアリテラシーを身につけて、主体的にテレビと向き合うべきだと考える。
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