いわゆる保守系の全国紙が、LGBTに懐疑的な記事を掲載している。LGBTに関する懐疑的意見に対処していくことは、LGBT当事者・支援者にとって避けては通れない道だ。あえて、反対意見の内容を紹介し、LGBTに関する議論が深まればと願う。
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「渋谷区の条例は結婚の意義を脅かす存在だ」ーーー。麗澤大の八木秀次教授(憲法学)は、産経新聞のWEBニュース(2015/3/31)で、渋谷区の同性カップルにおけるパートナーシップ条例に対して、懐疑的な意見を述べた。
新聞各社は、自社の主張を社説で発信するのは知られているが、掲載をする記事を通じても、その主張を発信することがあると言われている。
その中でも、産経新聞と読売新聞は、LGBTにおける進歩的な考え方に懐疑的な姿勢を示していることが伺える。 具体例を交えて紹介していこう。まずは、渋谷区の同性パートナーシップ制度制定日(11月5日)の翌日に、同制度について見解を示した舛添都知事の発言を掲載した産経新聞を見てみたい。
産経新聞の見解
同紙は、性的少数者に対する差別や偏見はあってはならないとしながら、同性パートナーシップ制度に対して、慎重な意見を示す都知事の見解を紹介。その中で、都知事の 〈憲法の規定は両性の合意のもとと書いてあるとおりであって、家族制度ということについては今、憲法の規定もあって、これはもう少し広く国民的な議論が必要だろうと思っておりますので、渋谷区と世田谷区が(引用者注:同性パートナー制度を)そういう形で先行的におやりになったということを、その成果を含めて注意深く見守っていきたいと思っております〉(産経ニュース 2015.11.7)という発言を紹介した。
筆者が、このニュースの同日の他の全国紙と東京新聞を確認した限りでは、舛添都知事の慎重な立場について、掲載したのは、産経新聞のみであった。
さらに、産経新聞と読売新聞は、同性婚を合憲と認める米連邦最高裁の判決が出た後も、同性カップルへの結婚証明書の発行を拒否した、米南部の郡庁の書記官について報道。発行拒否が宗教上の理由であることを示したうえで、宗教保守派から支持されていることや、〈これは同性愛者への差別ではなく私の信仰の問題〉(読売新聞朝刊 2015/11/10 7面)との、書記官の声を紹介している。
このように、産経・読売は、同性婚に一定の理解を示しつつも、慎重または懐疑的な意見であることがわかる。
LGBT当事者や支援者にとっては、LGBT否定派の意見は、聞きたくないことだろう。
一方で、自分の意見と異なる人たちの意見に耳を傾けることも重要だと、筆者は思う。
世論研究のプロと、国際機関の女性リーダーの見解
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この思いを援用するため、2人の権威の意見を紹介したい。
一人目は、世論研究の権威と言われる京都大学教授の佐藤卓己氏の見解だ。同氏は、過去の偉人を例にして、自分の考えと異なる本や新聞をあえて読むことが重要と指南。読書や新聞を例にとり、〈自分の考えと異なる他者の存在を知り、自分を動揺させるような経験をすること。読者が自分や新聞の論調とは全く異なる指向の広告を新聞で目にすれば、それ自体に意味がある〉(朝日新聞朝刊 2015/11/17 33面)と紹介している。
二人目は、国際通貨基金(IMF)で初めての女性専務理事、G7で初めての女性財務相などで活躍してきたクリスティーヌ・ラガルド専務理事の見解だ。男性社会で活躍してきた同氏に対して、どのようにすれば男性の中で世界的に活躍する女性リーダーになることができるのかという質問に対して、〈ユーモアのセンスが大切だ。自分自身をきちんと評価し、自信を持つこと。また男性を分け隔てせず、敵ではなく味方につけることだ〉(日経電子版 2014/9/20)と回答している。「自分」を「LGBT賛成派」、「男性」を「LGBT否定派」に変換して読んでみよう。
LGBTの否定派を味方につけるくらいの心の広さが必要だということか。