「手術なしで戸籍上の性別変更を」トランスジェンダー当事者の申し立てを認める(岡山家裁津山支部)

岡山県に住むトランスジェンダーの当事者が、生殖機能をなくす手術なしで、戸籍上の性別変更を求めた申し立てに対して、岡山家裁津山支部はこの申し立てを認めた。

「申立人の性別の取り扱いを、女から男に変更する」

2024年2月7日、トランスジェンダーの当事者が性別適合手術なしで性別変更を認めてほしいという申し立てについて、岡山家庭裁判所津山支部は、性別変更を認める判断を示した。

申し立てを行ったのは、 岡山県新庄村で戸籍上は女性で生活しているトランスジェンダーの臼井崇来人(うすい・たかきーと)さん。

性別変更を巡っては、生殖能力をなくす「事実上の手術が必要」などと性同一性障害特例法で定められているが、最高裁は昨年10月、これを「憲法違反」とする判断を示し、臼井さんは2023年12月、健康へのリスクなどを理由に2度目の申し立てを行った。

臼井崇来人さん

「とてもうれしく感慨深い。これから結婚ができたり家族で保険に加入できたりすることで実感が湧いてくると思う。新たな人生のスタート地点に立てた」

「社会が変わったと感じる。性同一性障害の当事者と自分は関係ないと思っていた人がお互い歩み寄り、ちゃんと話し合える土台ができたと思う」

「実感としては、まだ社会が十分理解しているとか、社会の中でも何ともならない状況になっているというほどまでまだ認知されていないわりには、法律の方がちゃんと向き合ってくれているのではないかと正直感じている」

津山支部決定を受け、臼井さんの戸籍上の性別は、新庄村が変更手続きを進める見込み。

臼井さんは現在、女性のパートナー(46)とその息子(13)と暮らしており、「一般の方が普通にできていたことを、やっと自分もできるんだな、スタート地点からまた次の人生が始まったなという感じがして、わくわくしています」と笑顔を見せた。

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世界でも異例の法律 ―性同一性障害特例法―

トランスジェンダーが戸籍上の性別を変えるのに、生殖能力を失う手術が必要と定めた性同一性障害特例法。
特例法で定められている手術要件は、生殖不能要件と外観要件の二つだ。

二つの手術用件はともに、体にメスを入れるという意味では同じことだが、「生殖不能要件」を削除し、「外観要件」を残すのか、「外観要件」含め二つの要件をなくすのかが最大の焦点となっていた。

海外では性別の自己決定権を尊重し、性別変更の要件から性別適合手術を外す動きが広がる。
全国の当事者や支援者でつくる「LGBT法連合会」が調べた範囲では、生殖不能要件をなくした国で、外観要件を残している国はないという。
手術要件のうち、性器の外観の変更を求める外観要件だけが残れば、世界でも異例の法律となる。

今回の臼井さんの申し立てを認める裁判を行った、岡山家裁津山支部の工藤優希裁判官は「医学的にみても必要かつ合理的なものとは言えず、憲法に違反する」として、特例法のうち生殖機能をなくす規定を無効とし、性別変更を認める判断を示した。

一方で、「特例法全体が無効となるものではない」ともしている。

当事者ら「手術2要件、同時撤廃を」

また、特例法における二つの手術要件に関して、トランス男性とトランス女性の間で、大きな「不平等」が生じているという問題も議論されてきた。

女性から男性に移行するトランス男性の場合、ホルモン投与で陰核(クリトリス)が肥大していれば、家裁が外観要件を満たすと判断する傾向にある。
このため生殖不能要件が無効となったいま、一切の手術なしで性別変更が可能になった。

一方で男性から女性に移行するトランス女性は、外観要件を満たすために性器の手術が必須で、いまも陰茎(ペニス)を切除しなければ性別変更できない。
多くの当事者は「生殖不能要件と外観要件が同時に削除され、性別変更のために一切の手術が不要にならなければ、問題は解決しない」として手術2要件の撤廃を求める。

また、未成年の子がいないことを要する「子なし要件」は世界でもまれな規定で、20年前の法制定当時から根強い反対がある。

そもそも特例法が冠する「性同一性障害(GID)」は、国際的には消えた診断名だ。
世界保健機関(WHO)が2018年に改訂を決めた国際疾病分類で、性同一性障害は「性別不合」とされ、精神障害の分類から外れた。国内ではまだ未適用で、適用を見据えた検討も必要となる。

GID学会理事長の中塚幹也・岡山大教授は「トランスジェンダーの中には、手術を希望する人もいれば、医学的に受けられない人や望まない人もいる。速やかに二つの手術要件を削除すべきだ」と指摘。「子なし要件も『自分のせいで親が性別変更できない』と思い悩む子どもを生んでおり、あわせて見直し議論をしてほしい」と話している。

最高裁が法令を違憲と判断した場合、国や立法府は法改正に向けて動かなければならない。憲法に公務員や国会議員らの「憲法尊重義務」が明記されているからだ。

しかし、法改正に向けた各党の足並みはそろっていない。

当事者の今後

臼井さんの申し立てが認められたことにより、多くの当事者の選択肢に影響を及ぼすこととなるだろう。
個々を尊重する社会の認識は少しずつ進んでいるが、より影響力のある法律が当事者と向き合い、当事者の大切な体にメスを入れさせる法律がなくなることを願う。

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