同性婚の米最高裁判決文を全読した私が思う、LGBT支援の重要性

LGBTに関してネガティブになる合理的な理由は何もないーーー。ライフネット生命の社長・岩瀬大輔氏は、そう結論づけた。一方で、司法試験に合格している同氏は、同性婚を認めた米国の最高裁判決文を全読し、反対派の裁判官の意見も傾聴に値すると評価。LGBT支援の賛成・反対派を含めた議論の活発化が、日本でも必要と訴えた。その他、政治を巻き込んだLGBT支援の重要性、自社のLGBTへの取り組みなどを紹介してくれた(聞き手:Flag編集部 サム)。

①ーーーLGBT支援の反対派に対する意見を聞かせてほしい。


ライフネット生命社長の岩瀬氏は、LGBT支援の賛成・反対派を含めた、国民的な議論が必要と説く

まず、大前提として、▽当社の代表としてではなく、個人的な意見として話をすること、▽私のスタンスはLGBT当事者のアライ(支援者)であること、▽LGBT支援における賛成派・反対派を踏まえて国民的な議論をすることが(LGBT支援にとって)重要であること、というのを踏まえて、話をしていく。
個人的には、日本の伝統的な家族観や結婚観が失われるという考え方に対しては、極めて主観的な意見だと思うので同意できない。また、人類という種が絶えてしまうとの理由に対しては、部分的には一理あるが、同性愛者の存在を否定する理由にはならない。そういう意味で、反対派の意見は、基本的には「合理性がない」と思う。

②ーーーLGBT支援の反対派の意見を疑問視している。

そうだが、一方で傾聴すべきところもある。同性婚を認めた米最高裁判決における判決文を全読したのだが、その中の反対派の裁判官の意見についてだ。
反対派の裁判官は、個人がどういう家族の形態を取るのかは自由であるとして、LGBTに対して一定の理解を示している。
その上で、家族のあり方を「民主主義的なプロセス」(国民がその意志を代表者に信託、その代表者が制度を決めること)を経ることなく、「司法的なプロセス」(選挙で選ばれていない裁判官が判断を下すこと)のみで決めることには問題があるとした。法律で保護すべきことは、時代の文脈と多くの人の価値観などを切り離して決定してはいけない。つまり、法律や制度は決められた「民主主義的なプロセス(この場合は政治的な手続き)」を経て決めるべきだという意見だ。

③ーーー反対派の裁判官が言うとおり、民主主義的なアプローチが重要だと。


同性婚を認めると「では、なぜ多重婚は認められないのか」との反対意見が出てくるという。

その通りだ。日本でも同性婚というテーマに対して、国民的な議論を沢山していく必要がある。例えば、これは私の意見ではなく、前述の米最高裁判決の反対派の裁判官の意見だが、同性婚を認めると「では、なぜ多重婚は認められないのか」という議論が出てくる。このように、同性婚に対しての着眼点は多いと言える。

④ーーー日本の同性愛に関する受容度はどうか。

日本でも、同性愛や同性婚に対する若い人の受容度が高まっている。これは歓迎されることだ。一方で難しいのは、配偶者の扶養や相続などの社会保障が、まだ昔の家族的価値観(男性は働き、女性は専業主婦など)を前提とされていることだ。現在、(渋谷区の例など)同性カップルに対応できるように少しずつ変化が起こっているが、法制度まで手がつけられるには少し時間がかかってしまうかもしれない。企業と行政の取り組みが重要だと考える。

⑤ーーーアメリカでは、大統領選におけるLGBT票に注目が集まっている。

民間企業のLGBTへの支援活動を活発化させる意味で、LGBT支援に積極的な政党や立候補者を支持することは、あってしかるべきだと思う。どういう国にしたいのか、「マイノリティ・イシュー(社会的少数者論点)」の一つとしてLGBTを挙げることは、大いに良いことだと思う。

⑥ーーー低年齢層と比べ、中高年層のLGBTへの受容度が低いと言われる。


LGBTのアライ(支援者)であることを示す、同社のオリジナルステッカーを、自身の携帯電話に貼っている岩瀬氏。

当社で議論していても、世代間において、LGBTというテーマに対しては受容度に差があったと思う。他のテーマについては、リベラルな考えを持つ社員が多数いるのにもかかわらずだ。私の世代からすると、「反対する人なんているんだ」という所感だったが。

⑦ーーー同性パートナーを、死亡保険金の受取人に指定できるようにした。

この取り組みは、約2年前から準備をしていた。専門家や弁護士、行政などと入念に議論を重ねてから実施に至ったのであり、LGBTの最近の社会的な流行に合わせたわけではない。

⑧ーーー(⑦の質問について)実施に至るまでのエピソードは。

複数の社員からどうしてもやりたいと言われたが、当初は、当時の経営の優先度を考慮し、この件について経営判断できるまで論点が定まっていなかった。
それでも何度も提案しにきた。「僕らがやらなければ、誰がやるんですか!」と、社員から熱弁された。最初は(ロジックよりも)熱意が先行していたが、最終的には正当性と、ビジネス、熱意の観点で可能性を感じて、実施の判断を下した。

⑨ーーーLGBTにおける当事者と非当事者の、職業格差が問題となっている。

知り合いの経営者の100%は、求職者がLGBTであろうが、ポジティブな意味で「だから何?特別な問題ではないのでは?」という感じだと思う。私と同世代の経営者で、LGBT人材に対して懐疑的な意見を持つ人がいるとは想像できない。
一方で、日本を代表する有名企業の会社に勤めるLGBTの知り合いは、その会社では「LGBTは存在しないことになっている」という。まだ、そういう会社があるのかと思った。
ただ、日本の優れたベンチャー企業は、そのようなことはないと思う。当社を含めてLGBTかどうか関係なく、優秀な方と一緒に働きたいと思っているだろう。

(了)

取材後記:
「自分の考えと異なる他者の存在を知り、自分を動揺させるような経験をすることに意味がある。」
世論研究の権威である、京都大学教授の佐藤卓己氏が、過去にメディアで語っていたことだ。
LGBT反対派の意見に耳を傾ける、賛成派の岩瀬氏に、その姿が重なった。

サム: LGBTのアライ(支援者)として、Flag編集部で記事執筆。前職において、様々な分野の企業・個人プロフェッショナルの広報業務(メディア露出)を支援。その経験を活かし、LGBTというテーマを、政治、経済、国際情勢、人文科学などの様々な切り口で考察、広報していきたいと考え、日々奮闘中。