INTERVIEW

「LGBTって〈性〉とか〈恋愛〉の話で、子どもの話ではないのではないか?」「そもそもお昼に話すことじゃないんじゃないか」――。「LGBTを含めた全ての子どもがありのままの大人になれる社会」という理念を掲げて設立されたNPO法人ReBit(リビット)。2009年早稲田大学で学生団体として設立され、2014年からは法人化された。「LGBT×子ども・若者」という切り口で、LGBT教育・就活のサポートなど幅広い活動を行っている。代表の薬師実芳(やくし・みか)氏はFtMトランスジェンダー*の当事者だ。薬師氏は「LGBTは個人のアイデンティティの問題であり、進路や就活など、ライフプランに関わること。LGBTであることを否定的に捉えることは、自尊感情の低下に繋がる」とLGBT当事者たちの本質的な課題に触れる。多様な活動を展開するReBitについてと代表としての思いを薬師氏に聞いた。(聞き手:one)

*FtMトランスジェンダーとは、出生時の身体の性が女性で、自身を男性と自認している人を指す。「Female-to-Male」の頭文字をとったもの。

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事業の三本柱

具体的には大きく3つの事業を行っています。

①「LGBT教育」

教育現場において教師の約9割がLGBTについて知らない、また、約9割の子たちが教えられていないという現状を変えたいという思いから、様々な教育現場でお話をさせていただいています。平成27年度は小学校~大学などの学生や教職員、内閣府や教育委員会などの行政へ年間約140回開催させていただきました。

②「LGBT成人式」

「LGBT成人式」は、セクシュアリティを含めたありのままの自分を祝福される日をつくろうと、全国の実行団体等と連携し開催しているイベントです。各地域において、LGBTのロールモデルを示し、「あなたは一人じゃない」ということを伝えています。今までに北海道から長崎まで全国13地域で38回開催し、今年度累計で4千名の方に参加して頂きました。

③「LGBT就活」

求職時にセクシュアリティに由来した困難を感じる同性愛者や両性愛者は約40%、トランスジェンダーは約69%と言われています。その現状を変えるべく、企業とコラボしながら、今まで400名近くの就活生をサポートや、約100社の人事担当者等へ研修提供をしてきました。「自分らしく働く」ことを通じその人らしい人生を送るためのお手伝いをしています。

ReBit〈リビット〉が目指す社会

ReBitが目指す社会は「LGBTを含めた全ての子供が、ありのままの大人になれる社会」です。10年後を生きる子どもが、「なすがすきだ」というのと同じように「ゲイだ」とか「発達障害がある」とか「国籍が日本ではない」とか、誰かと違うことを当たり前に言えたらいい。ひとりひとりがちがうことが当たり前で、かつそれがすごく素敵だと認識される社会。その社会ではきっとLGBTを含めたすべての子どもがありのままでオトナになれていると思います。

そんな社会を目指し、少しずつ(Bit)を何度でも(Re)繰り返し、実現していきたいと思います。

 

ロールモデルの紹介

「LGBT就活」を通して、企業のLGBTへの取り組みやLGBTの社会人を紹介しています。現状では、まだ職場でのロールモデルが少ないので、それを可視化するために載せさせて頂いています。LGBTの就活生には「自分を受け入れてくれる職場はないんじゃないか」と思うことで、自分の選択肢を狭めたり、就活を諦めてしまう人もいます。そういう子たちに「あなたらしくはたらける職場がある」ということを伝えたいと思っています。

ReBit代表・薬師氏

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自身の就職活動中のエピソードを語る。

就活の経験から分かった「壁」

大学生の当時はトランスジェンダーであることをカミングアウトして就職活動をしていました。企業の方は「それはあなたの強みだ」と言ってくれたり、「私たちは能力だけで選びます」と受け止めて下さいました。しかし、一部の企業では、自分のことを伝えた時に、30分の面接時間を2~3分で切り上げられ、「もう帰れ」と言われてしまうこともありました。ある企業の最終面接では、役員の方に「あなたの身体はどうなっているんですか?」「子供は産めるんですか?」と問われたこともあります。当然のことですが、身体のことや生殖能力について問うことはセクシュアルハラスメントです。自身の就活での経験も、LGBTの就活支援を始めるきっかけとなりました。

 

LGBTは2つの時期をサバイブしなければいけない

大きく分けて2つの時期がLGBTの子ども・若者にとってのボトルネックになると考えています。1つ目は小学校高学年から高校の二次性徴期です。性同一性障害者の約7割が自死念慮を抱きそのピークは二次性徴期であるというデータからもみえる通り、この時期のLGBTの自死率は高い状況にあります。まずそこ時期をサポートしなければいけません。そして、2つ目は、移行期です。二次性徴期を乗り越えても、就活などのタイミングでもう一度自分を否定することは少なくありません。この2つのボトルネックを解消しLGBTの子どももありのままでオトナになれる社会を構築したいと思います。

 

「ひとりじゃない」悩んでいるLGBTへ

LGBTの方に伝えたい事は、「ひとりじゃない」ということです。あなたのことを応援してくれる団体は沢山あるし、「一緒に働きやすい職場を作っていこう」と言ってくれる職場も、ひとつひとつ増えてきています。まだ足りないかもしれないけれど、それでも社会は大きく変わりつつあると思いますし、これからも変わっていくよう様々な人と取り組んでいきたいと思います。

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「アライの人の〈見える化〉が必要。」

 

アライの方にも出来ることがたくさん

LGBTの存在も見た目でなかなかわらかないですが、アライの存在も見た目ではなかなか判断できません。だからこそ、アライの人が「LGBTのこと知ってるよ」という気持ちを「見える化」していただけると嬉しいなと思います。

 

LGBTを応援するために今日からできること(見える化のやり方)

例えば、LGBTにかんする記事をSNSでシェアしたり、LGBTの話題を肯定的に話してたり。もしLGBTが笑いのネタになっていたら「それ面白く無いよ」ってツッコミを入れたりするのも良いと思います。その場にもLGBTの方がいるかもしれないですので、そう言ってくれている方がいるのはとても心強いです。例えば上司がLGBTのネタにそうやって対応してくれていたら「この人には相談できるな」と思うきっかけにもなります。それから、パソコンなど身近なところにLGBT理解のシンボルである6色のレインボーを貼ったり、「夫・妻、彼氏・彼女」ではなく「パートナー」と言うことで、LGBTのこと知ってくれているんだなと伝わることもあります。

 

【あとがき】

今回の取材の中で、薬師氏は自身の生い立ちについても話してくれた。

自分のセクシャリティに気づき始めたのは小学4年生の時で、6年生の時に「金八先生」を見て、初めて「性同一性障害」という言葉と出会ったという。当時インターネット上には、「ホルモン療法を受けたら30歳で死んでしまう」とか「仕事にはつけない」とか「国内では生活が出来ない」というものが多く、誤った情報を信じてしまった時期もあったと話してくれた。「もっと早く、正確な情報を知りたかった」と当時を振り返る。

最後に、「ReBitを通してどのような世の中を作りたいか」という質問に、薬師氏は「自分のことで悩んでいる人に対して、〈あなたのままで大丈夫〉とメッセージを届けられる大人を増やしていきたい」と語った。

私たちには、将来の世代のために、より良い社会を作る責任がある。その第一歩として、まず目の前の友人に対し、真摯に向き合うことが必要だ。その上で「あなたはあなたのままで大丈夫」と、その人を支えられるような人間にならなければいけない。

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