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わが国では、2015年に東京都渋谷区が、全国の自治体として初めて同性パートナシップ条例を施行。その後、自治体により詳細は異なるものの、東京都世田谷区や兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市などが、類似する条例を施行している。
渋谷区の場合、区が証明書を発行することで、「結婚に相当する関係」として認められ、パートナーが入院した際、家族のみに限定される面会権が保障されるほか、区営の家族向け賃貸物件への入居が可能となるなどのメリットがある。
しかし、問題は社会制度だけではない。独身であり続けることに対する家族や社会からの圧力、「シングル・ハラスメント」と言われる言動への苦悩も深刻だ。
ゲイであることをカミングアウトしている場合を除き、一般的に、30歳を超えて男性が独身でいると、「いつ結婚するのか」「なぜ結婚しないのか」と、ストレートな質問を投げかけられることが増える。同じ状況の女性に対しては、さすがに同様の質問は避けるところ、男性であるがゆえに、そのような質問も「酒席の話題」として軽く扱われるのが現実だ。
都内に住む40代会社員の男性は、近年転職した。前職では、悪意はないのであろうシングル・ハラスメントが横行していたという。
そこで、転職先の会社では、独身か否かを聞かれた際、バツイチを装うことにした。「『一度結婚したが離婚した、結婚はもう懲りた』ということにすれば、それ以上追及はしてこない。嘘をつく罪悪感よりも、面倒なやりとりを回避する自己防衛本能が勝った。」と話す。
会社の同僚以外からもシングル・ハラスメントは尽きない。その筆頭が親だ。
親は、息子を心配しているがゆえにその手の発言をすることが分かるからこそ、扱い方が難しいと言える。
現在30歳~40歳前後の世代の親は、二世帯、三世帯同居が当たり前だった昭和20年代、30年代生まれ。彼らは、「家族の団結」、「子を持つこと」の意義を信じて疑わない。自らが選択し、謳歌してきた生き方を、息子にも享受してほしいと願っている。
それが必ずしも唯一の幸福の形ではないことを、頭の片隅では分かっていながらも、多数派でない生き方を奨励するほどの柔軟さはない。それがわが子であればなおさらだ。
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首都圏に住む30代会社員の男性は、20代後半頃から、母親のありとあらゆる「結婚しなさい攻撃」を受けてきた。
攻撃のバリエーションは多彩で、ある時は「なぜ結婚しないのか」と詰問し、ある時は「結婚の素晴らしさ」を教え諭す。またある時は、「結婚しないなんて考えがまかり通ると思っているのか」と怒り出すこともあったという。
「母は自分たち夫婦が死んだ後、僕が天涯孤独になることを憂いているんでしょう。」
男性は、母の攻撃に嫌気がさしながらも、抗えずにいた。
攻撃の手法が一変したのは、男性が30歳を迎えた直後だった。「ある日、いつものように僕に結婚の話をし始めた母が、突然、号泣しだしたんです。どうして分かってくれないの。あなたがきちんとお嫁さんをもらうまで、私は死ぬに死ねない。お願いだから結婚を真剣に考えて、と。」
感情を爆発させる母の姿を見て、男性はひそかに決意したという。
それから程なくして、男性は婚活サイトに登録。「嫁探し」を始めた。サイトを通して出会った女性には、自身がゲイであること、結婚して親を安心させたいことを告げ、それでも受け入れてくれる女性を探した。
ほとんどの女性はその受け入れを拒絶したが、サイトに登録後、一年経って出会った30代の女性にその話を打ち明けると、彼女は言った。
「私も、父親から早く結婚しろと言われています。父は末期のがんを患い、余命が長くありません。一刻も早く、父に結婚の報告をしたい気持ちは、私も同じです。」
二人はその後入籍し、無事、双方の両親に報告を済ませた。
結婚式は挙げず、入籍後も同居はしていない。当然、セックスはおろか、手をつないだこともない。男性は、この選択を後悔していないという。
「母の安堵する顔を見ることができて良かった。世間的には偽装結婚でも、これが人生最大の親孝行だったんじゃないかと思います。」
こんなケースもある。都内に住む30代男性は、20代中盤の頃、仕事をとおして知り合った年上女性と結婚した。理由は「子供が欲しかったから」。
その経緯について、男性はこう語る。「僕は、ゲイだから何かをあきらめる、という考えは持ちたくないんです。子供を持つことは若い頃からの夢でした。ゲイだけど子供が欲しい。どうすれば良いか。それをたまたま相談したのが、のちの妻だったんです。
彼女は僕の考えに賛同してくれました。彼女もまた、結婚よりも子供を望んでいたんです。
しかし、僕は女性とセックスができない。必然的に、体外受精という道を選ぶことになりました。ところが、受診したクリニックはすべて門前払い。
理由は、『婚姻関係にないカップルに体外受精を奨励することはできない』というものでした。」
実際、日本産婦人科学会では、「婚外子」が受ける相続上の差別などの問題から、長らく体外受精は婚姻関係にある夫婦に限るとの見解を示していた。
2017年現在、その方針は緩和されつつあるが、事実婚などのカップルに体外受精を行わせるかどうかは、各クリニックに判断が委ねられているのが現状だ。
男性は、それならば、と女性と入籍し、ついに体外受精を試みた。
しかし、何度挑戦しても、女性は妊娠しなかった。時間と費用がかさみ、体力、精神力ともに摩耗していく。そして、最大の誤算が生じた。女性が男性に恋愛感情を抱いたのだ。
二人は入籍する際、互いの人生を尊重しつつも、恋愛感情は排除した関係を築くことを誓ったはずだった。しかし、体外受精が成功しない中で、女性はいつしか、男性を心のよりどころとし、男性がほかの男性と会うことに、嫉妬心を募らせていたのだという。
結局、子宝に恵まれず、当初の誓いも成し遂げられなかった「夫婦」関係は破綻した。
二人は離婚し、それ以来、顔を合わせていない。
「彼女に対しては、深い罪悪感を抱いています。子供ができない、というだけでも女性にとってはショックがとても大きいのに、僕が彼女の気持ちに応えられないことで、二重に傷つけてしまった。」
結婚をめぐるゲイの問題は、入院中の面会権や賃貸物件への入居だけでは決して片付けられない。
愛する人とともに暮らし、添い遂げるというささやかな夢が、社会制度や他者からのまなざしのなかで、行き場なくさまよっている。