2017年末、最注目の国産LGBT映画『恋とボルバキア』

 

2017年12月9日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー。

セルフドキュメンタリー「アヒルの子」でデビューした小野さやか監督作品。監督・小野さやかが撮影、編集も手がけている。セクシュアル・マイノリティの人々の姿を通して、曖昧で混沌とした性や、恋や夢、幸せのかたちや生き辛さに限りがないことを描き出す。プロデューサーは、「FAKE」の橋本佳子。

 

アヒルの子から7年。小野さやかの最新作はカラフルにトランスする恋とか愛のドキュメンタリー。

お洒落がしたくて女装を始めたらいつのまにか男の人に恋をしていたり、素敵な女の子に一目惚れをしたら彼女は彼(MtFトランスジェンダー)だったなど…リアルは時におとぎ話のようにドラマティックで、”性”は白と黒では分けられないくらいカラフルで混沌したグラデーションで形成されている。

本作での小野さやかの手法は、伝わりにくいものは伝わりにくいままに、理解出来ないものは理解出来ないままナチュラルに。俯瞰に徹しているかと思いきや、監督が抱いた疑問や感情移入から生まれたであろうブレは作品内にそのまま内包しながらエンンディングまで表現されていく。


「みんな違って、みんないい」金子みすず [1903-1929] の詩『わたしと小鳥とすずと』の一部だ。

それを誰かがLGBT肯定のコピーとして広めた。このコピーで救われたり気付きを得た人は多い。秀逸な戦略だと思う。だが…本作『恋とボルバキア』のコピーには続きがある。

「みんな違って、みんないい、ってみんな言う」

お互いの違いを認め合う。そんなに難しい事なのだろうか?そんな事は現代にとって当たり前ではないだろうか?だが、その当たり前が当たり前になっていない21世紀の世界。社会では違いを認めあうという事が未だに綺麗事のまま。その現実は残念な事にこの日本にも存在する。端的にそんな現実を表した秀逸なコピーだ。これもまた素晴らしい。

恋や夢や、幸せのかたちも、抱える生き辛さも限りがない。どこから見るのか、誰に感情移入するのか。今、あなたは何を抱え生きているのか。その時々の気持ちや状況でこの映画から得られるものは一変すると思う。

一度の視聴で理解出来ないものは理解出来ないままで良いと思う。その時に何も感じられなかったとしても良いと思う。数日後、数年後、または二度目の視聴で、何かのきっかけで、気付きを得ることもあると思う。

 

まずは一度、何色にも見えるカラフルなトランスジェンダー達とその人生に関わることになった人達の物語を見て欲しい。スクリーンに姿こそ現さないが94分のストーリーのどのシーンにも確実に小野さやかの様々な想いや情熱や愛情、やるせなさがしっかりと息づいている。

人の生き様は時に水面に反射する綺麗な太陽の光のようであったり、曖昧な星の輝きで辛うじて保たれている漆黒の夜空だったりする。登場人物はこれからどんな景色を描くことになるのだろう?そういった事に思いを馳せる事が出来る素晴らしき”未完成”のドキュメンタリー映画だと紹介したい。

「あなたの心に残るのは、何色だろうか。」

 

次回は小野さやか監督へのインタビューです。

はすみはずみ: