至極当然のことながら、LGBTにも、「素敵な出会い」から安らぎや刺激を得たいと願う心理は存在する。しかし、いわゆるノンケ(ヘテロセクシャル)と異なり、マイノリティであるがゆえに出会いの機会が限定されているのが現実だ。
では、東京を中心とする首都圏で暮らすLGBTと、地方で暮らすLGBTでは、彼らの「出会い」をめぐる環境はどのような差があるのだろうか。ここでは、LGBTの中でも特に人口が多い、ゲイの場合を検証する。
現在、ゲイが出会いを得る手段として、代表的なものに
①アプリ、SNSを通した出会い
②ゲイバー、クラブイベント、発展場等のゲイコミュニティにおける出会い、がある。
アプリ、SNSを通した出会いとして最も主流なのが、「9monsters」「Grindr」、そしてTwitter等によるものだ。スマホの位置情報から、自分自身が現在いる場所の「ご近所」にいるゲイを検索することのできる「9monsters」「Grindr」では、好みの容姿、条件の相手を見つけ次第、メッセージを送信することができる。
これを東京のゲイダウン、新宿二丁目で起動してみると、半径数十メートル以内に何人ものゲイがいることがわかる。時には「0メートル」の距離にゲイがいると表示され、飲食店等でふと隣のテーブルを見ると、スマホ画面に表示されている顔がその場にいる、ということも多々ある。
しかしこれを、地方で起動するとどうだろうか。例により、自分自身に近い距離にいるゲイから順に表示されていくが、場合によっては2~3人目で数キロ、10人目くらいでは数十キロと、もはや「ご近所」とは言えない距離にしか、お仲間が存在しないという現実が示されるのだ。
しかも、いつ、どの時間帯に起動しても、表示されるのは同じメンバー。「知った顔」「以前にやりとりしたことのある男」のオンパレードで、そこに新たな出会いはない。
では、ゲイバー等のコミュニティにおける出会いはどうだろう。新宿二丁目では、「行きつけの店」に出向き、そこで決まった過ごし方をする者も少なくない。しかし、そのいつもの店にも、見知らぬ顔が現れる機会は確実にある。固定客が連れてきた客、SNS等の情報をたどって訪れた新規の客などだ。店舗数が多いため、一晩で何店舗かをハシゴする者も多く、回転が速い。そのため、繁盛している店には入れ替わり立ち替わり客が訪れ、出会いのチャンスが生まれる。
一方、地方ではここでも、アプリと同じ現象が起きている。ゲイバーに集うのは、毎度同じ顔触れだ。どれだけ繁盛している店でも、「知らない人がいない」状態が発生する。それはさながら、週末ごとに開かれる同窓会のようだ。その中で、誰が誰にアプローチした、フラれた、過去に恋愛関係だったという関係性まで、誰もが把握している。そもそもの店舗数が少なく、一定の店しか行く場所がないため、そのような現状に陥りやすいのだ。
では、毎週末同じメンバーで飲み交わす地方のゲイたちにとっての清涼剤とは何か。それが「ケンガイ」と呼ばれる人々である。ケンガイ、これは「圏外」ではなく「県外」と表記する。つまり、時として訪れる観光客や出張などの用務で県外から訪れた人々を指す。
彼らは、見知った顔が居並ぶ店内において、特別な扱いを受ける。刺激に飢えていたゲイたちは、現れた「県外」を品定めし、「アリ」でも「ナシ」でも、平凡な日常の突破口をそこに見出すのだ。
しかし、彗星のように現れた「県外」たちは、当然、一定期間の滞在を経て、戻るべき場所へと戻ってゆく。たとえ連絡先を交換していたとしても、簡単には会えない。地方のゲイたちは、その現実を受け入れ、いつもの場所へと戻っていく。このような現象が、SNSでも、ゲイバーでも、発展場でも、繰り返されているのだ。
では、ゲイにとって地方で暮らすことのメリットとは何か。西日本のとある都市で暮らす、40代のゲイは語る。「出会いの機会が少ないことが、逆に言えば、パートナーをしっかり見つけて、関係を築くことにつながるんじゃないかな。東京みたいにたくさん出会いがあるところだと、モテる人はどんどん声がかかっちゃう。その点、ここではみんな知り合いだから、悪いことはできない。どこで誰といたかなんて、すぐに目撃情報が入ってくる(笑)」。
同じく地方で暮らす50代のゲイからは、こんな意見もあった。「都会の暮らしを楽しめるのは、若いうちか元々容姿の良い人たちだけ。彼らには出会いの場がたくさんある東京は楽しいだろうけど、年寄りやブスたちは、いくら出会いの数だけあっても、相手にされなくて空しいだけ。その点、地方には新規の出会いはないけど、年寄りもブスも淘汰されることなく、それぞれに居場所を見つけて、お互いをなんとなく認め合ってる感じがいいの」。
マイノリティに真に優しいのは、都市か、地方か。それぞれのジレンマを抱えながら、論争は続きそうだ。
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