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「言ってどないすんねやろ」
職場でカミングアウトをするひとが増えているそうです。私も、そういった方々をお見掛けしたことがあります。
お互い同じ職場で働いているゲイ男性二人組で、はじめは片方が就職しました。”おなじゲイの友だち”を紹介し(そのタイミングで彼もカミングアウトしたそうです)、もう片方も職に就いた、という形のようでした。
私は、すごいなぁ、と思うのと同時に「言ってどないすんねやろ(=言ったところでどんな意味があるのか)」とも思いました。
「言ってどないすんねやろ」というと、すこしドライに聞こえるかもしれませんが、私はそう思いました。
どうしてカミングアウトしたんですか、と訊ねると、「隠すのが面倒だから」「まどろっこしいから」といい、「じぶんらしく働きたいんで」と返ってきました。なるほど、と思いつつ、やっぱり「言ってどないすんねやろ」と思いました。
そのモヤモヤを軸に仕事とセクシャリティについて考えたいと思います。(私はゲイですし、前述のこともありますから、あくまでゲイのひとに向けて書きます)
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職場ってどんなとこだっけ?
職場は私にとって、働いて、お金を作るところです。セクシャリティを隠しても面倒だと思ったことはありません。
うっかり口が滑りそうにはなりますし、たぶん隠すのはヘタなほうだと思う。ただそれを”面倒”だと思わないし、セクシャリティを打ち明けようとも思ったこともありません。
ゲイにとって苦痛なのは、休憩時間などの雑談のとき、恋愛の話や好きな女性のタイプを聞かれたときに”話を合わせること”と言われています。話を合わせるということは、隠したり嘘をつくことであり、それが”面倒”。罪悪感も生まれるし、つじつまを合わせるのにストレスが生まれる。
ただ私は、そういう考えを疑ってしまいます。プライベートなことに触れないで、というのは、相手もおなじだからです。基本的に、恋愛の話でなくとも、深く首を突っ込もうとするひとはいません。好きな女性のタイプを聞かれても、好きなミュージシャンのひとりでも挙げて、顔が好きファッションが好き、といえば、相手もそれ以上寄ってこないですし、せいぜい別の子はどう、くらいの話です。そもそも息抜きで話したいだけですから。
たまに例外がいて、プライベートな話でも深く突っ込んでくるひとがいますが、じぶんがゲイだからとか関係なく、ストレートのひとにとってもその人は”デリカシーがないひと”です。
職場は、恋愛の話をする場所ではないのです。セクシャリティとは、じぶんの根っこにあるもので、物の見方、とらえ方を左右するものですが、仕事には”ゲイである視点”というのは関係ありません。必要なのは、仕事をこなすことであって、例えばお金の勘定の仕方や、エクセルの使い方にセクシャリティは作用しない。ゲイだからといって、得意先の男の子にばかり愛想がよくても仕事になりません。
もちろん恋愛をする場所でも、ありません。
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面倒ってなに?
ところで”面倒”ってなんだろう、とも思います。思わず口が滑ったときに、バレてしまったとして、それはその時に対処すればいい話で、最初から「面倒なんで言いますけど、ゲイなんです」というのは、話が違うよなぁ、と思います。
“面倒なこと”が起こる前に、伏線を張っているわけですが、それは”面倒なこと”から、逃げているのではないでしょうか。なぜそれが”面倒”なのか、考えるキッカケを自分から殺そうとしているのではないか。
もっというと、じぶんの生きづらいこと、つまり働く上でのしんどい部分をセクシャリティという”理由”に、押し込めているのではないか。だから、それを開放することで、あなたらしい「あなた」になれると信じているのではないか。
配慮という仕事が増える
上記の考え方からいくと、職場でカミングアウトするということは、職場のひとに、”面倒なこと”を押し付けるわけですから、そもそもに配慮が足りてないと思います。
「ゲイです」と打ち明けることは、「ゲイです。それだけです」とは、なりません。「ゲイへの偏見はよくない」と頭ではわかっていても、心がどうしても追いつかないというひとは珍しくありません。
言ったからには、言い続けなくてはなりません。職場でのひとの流れは流動的です。「何故あのひとには言ってるのに、私には言ってなかったの」ということが起こり得てしまいます。入ってきてすぐ辞める子もいます。黙っていたらどうという問題もないことなのに、自らそこを照射したうえで、「知っておいてください」と”下”から言うわけですから、気を揉みますし、先輩や同僚はもちろん、それ以上に後輩たちは、気を使います。あらゆるひとを巻き込んで、統制する力があなたにあるのか。
つまり”配慮という仕事”が増えるわけです。それこそ”面倒”ではないか。
カミングアウト≠解決策
「面倒だ」と言いつつ、”ゲイであるじぶん”を隠していることに怯えているように見えてしまいます。”ゲイであるじぶん”に耐えられないから、つまり自信がないのではないでしょうか。
それはセクシャリティの問題ではなく、あなた自身の問題です。
あなたがじぶんのセクシャリティをきちんと受け止めきれていないから、不安だから、ストレスになるのです。質問内容がどうではなく、そういうじぶんを見つけてしまうから。
「面倒だ」といって、セクシャリティと向き合うことを放棄する。その上、あらゆるひとを巻き込むカミングアウトという”手段”をとるのも考えものかもしれない。
あなたらしさ”って?
とはいえ、前回のカミングアウトの記事でも書きましたが、「言いたいときは言うしかない」のも事実です。
「仕事をこなしていれば、恋愛についてふれられないよう過ごしてもいい」ということは「仕事をこなしていれば、セクシャリティを明かしても構わない」ということを意味するのかもしれません。
上述のように「職場はそんなとこじゃない」と私が考えるのも、環境の影響が多分にあります。すなわち、働いていくなかで「職場で明かしているほうがラクだ」と気づいた方も当然いらっしゃるわけです。
ただ繰り返して問いたいのは、”あなたらしさ”に忠実に生きたとしても、”あなたらしい”ということが「あなたをどれほど守れるのか」ということです。あなたが”あなたらしい”と思っているだけで、本当にそれが”あなたらしい”とは限らない。
“らしい”という表現は、とても抽象的です。あなたが、ぼやけて見える。どんなあなたを受け止めればいいのか、あなたの何を受け止めればいいのか、わからなくなる。
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あなたの”やり方”
私はセクシャリティを隠すために、嘘をつくことで、じぶんのセクシャリティを客観視し、セクシャリティはじぶんの一部にすぎないと気づきました。じぶんの一部に手間取っている場合ではないとも。
ただそれは私の”やり方”に過ぎない。たとえばあなたがカミングアウトすることで、仕事がさらに円滑に進められると思うのなら、それでいいと思う。ただ”わたしらしい”だなんてぼやけた言い方はせず、「これがわたしのやり方」と断定すべきです。
嘘をついてもいいし、隠してもいい。うち明けてもいいようだ。ただ大事なのは、あなたの”やり方”で働く、ということ。あなたがあなたであることに、自信を持つということ。
それもあなたの「仕事」です。
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