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Trans-womanであり性社会文化史研究者の三橋順子さんが明治大学文学部で13年にわたって担当する「ジェンダー論」講義は、毎年300人以上の学生が受講する人気授業になっている。
その講義録をもとにした書籍『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門』が、このたび刊行された。

今回は、その中から、「LGBT」という言葉がいつ生まれ、どのように受容してきたかの歴史を紹介する。

※本稿は、三橋順子著「これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論」(辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものである。

L/G/B/Tとは何か

「LGBT」は、2010年代半ばくらいからよく聞くようになった新しい言葉である。
簡単に言えば、性的に非典型な4つのおもなカテゴリーの英語の頭文字を合成したもの。

Lはレズビアン(Lesbian:女性同性愛者)、Gはゲイ(Gay:男性同性愛者)、Bはバイセクシュアル(Bisexual:両性愛者)、Tはトランスジェンダー(Transgender:性別越境者)を表す。

本来、性的少数者の政治的連帯を示す概念で、「LGBT」というカテゴリーがあるわけではない。
L、G、B、Tそれぞれのコミュニティがあり、歴史的にも現在でも別々に行動している。
それが、共通の政治的課題、たとえば「性的マイノリティの人権の擁護」や「同性婚の法制化の早期実現」のような目的のために手を取り合って協力する、連帯するときに「LGBT」の形をとると考えている。

逆に言えば、「女なんて劣った存在だ。ましてレズビアンなんて最低だ」と思っている男性優位主義のゲイや、「Trans-woman なんて、どこまでいっても女じゃない!」と主張する身体本質主義のレズビアンは、連帯する気がないため「LGBT」ではない。
ただの男根主義のゲイであり、トランスフォビア(トランスジェンダー嫌悪)なレズビアンである。

つまり、「LGBT」を「性的少数者」の単なる置き換え語として使用するのはまったくの誤りであり、そうした使い方をする人たちは、言葉の本来の意味がわかっていないということになる。
また、ひとりの人間にLGBは兼ねられず、「レズビアンでありゲイでもある」ことはあり得ない。
ただし、L/G/B/とTは兼ねることができるため、「Trans-manでゲイ」「Trans-womanでレズビアン」の形はあり得る。

よって、日本のマスメディアがよく使う「LGBT男性」「LGBT女性」といった言い方は、言葉が内部で矛盾しているため誤用であり、あるいは一部の活動家がするような「私はLGBTです」という自己紹介も外国では通用しない。

こうしたことを踏まえ、三橋氏は本来の意味からすれば「L/G/B/T」と書くべきと主張してきた。

しかし、ある新聞記者はこう言った。
「三橋先生がおっしゃることはよくわかります。
ただ、新聞は文字数の制約がとてもきついのです。
先生の/(スラッシュ)を入れる表現だと3文字余計にかかります。
4回使えば12文字分で、うちの新聞は1行12文字ですから、それだけで1行余計にかかり、その分、情報量が減ってしまうのです」

三橋氏は
「まあ、そうした新聞の事情、わからないわけではありません。
しかし、本来の意味を忘れてしまうのは困りものですよ」と回答している。

「LGBT」という言葉はいつ頃から使われるようになったのか

日本は、明治時代以降、たくさんの欧米の言葉(概念)を受け入れてきた。
そうした外来語は、漢字(熟語)に置き換えたり、カタカナで表記したりして、いつしか日本語の一部になってきている。
ただし、受け入れの際に、本来の意味から微妙に変化してしまった概念も少なくはなく、「LGBT」という言葉(概念)は、外来語の受け入れの際に、少し意味がずれてしまった現代における典型例である。

「LGBT」という言葉がだいぶ流通し始めた2016年、『朝日新聞』の校閲部の方から「LGBTの言葉の歴史を教えてください」という問い合わせがあった。
校閲部とは、新聞社や出版社で言葉の使い方や記事内容が正しいかをチェックする部署である。

三橋氏は「どこかに文献があると思いますよ」と無責任な返事をしましたが、その方は「かなり調べましたが、少なくとも日本語のものはないのです」と言った。
「じゃあ、ちょっと調べてみますね」とその場は返事をして、調べてみたら本当に分権はなく、海外のLGBT事情に詳しい、長年の友人でもある大阪公立大学教授の東優子さんにも同じ質問がいったようで、結局、2人で連絡を取り合って調べることになった。

その結果、「LGBT」という言葉は、もともと、欧米のGay&Lesbian「活動家」の用語であること、権利運動が先行していたL&Gが、後発のバイセクシュアル(B)とトランスジェンダー(T)を掬い上げる言葉として使われるようになったことが分かった。

こうした語源を調べるときに必ず参照する『Oxford English Dictionary(OED)』によると、1992年のゲイニュースダイジェストに”National LGBT Studies Conference” とあるのが「LGBT」の初出であることが発覚したが、同時期に「GLBT」という言葉もあり、その初出は1993年。
つまり、1990年代前半には「LGBT」の並びが固定していなかったことが分かる。

東教授が欧米の活動家から聞き取ったところを要約すると、
「1980年代でも使っていたように思うがよく覚えてない、1990年代には間違いなく使っていた。
そう言われると、順番は決まっていなかった。
なぜLGBTの順番になったかはジェンダー平等を目指す流れの中で、Lを先にもってくるようになった」
ということで、OEDと、おおよそ同じ結果だったため、つまりは「活動家用語」ということである。

活動家の間で使われていた「LGBT」が、公的な文書で使われた最初は、2006年の「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの人権についてのモントリオール宣言(Declaration of Montreal on Lesbian, Gay, Bisexual and Transgender Human Rights)」と思われる。
4つのカテゴリーを羅列するとたしかに長いため、その省略語として、以後、国際連合を中心とした人権運動の用語として広まっていった。

当初、「LGBT」ではなく「LGBTI」だった

日本の新聞に「LGBT」の言葉が登場した早い例としては、『朝日新聞』2004年1月23日付朝刊の国際面「地球24時」の「ことば・ワールド」で、「同性愛者・両性愛者・性転換者」といった注記がされている。
しかしこれは、通信社配信(AFP→時事通信→朝日新聞)の記事で、『朝日新聞』のオリジナルではない。

三橋氏が「LGBT」という言葉を最初に知ったのは、2003年12月に台湾で開催された国際シンポジウム「跨性別(トランスジェンダー)新世紀」に参加したときであり、自分で最初に使ったのは、2005年にタイのバンコクで開催された「第1回アジア・クィア・スタディーズ学会」の報告記を書いたときである。

日本で書籍名に「LGBT」を使った最も早い例は、2007年出版の藤井ひろみ・桂木祥子・はたちさこ・筒井真樹子編著『医療・看護スタッフのためのLGBTIサポートブック』(メディカ出版)である。
これは、例外的に早く、編著者の筒井さんが英文翻訳者で、アメリカの事情に通じていたことによるものと思われる。

ここで注目すべきは「LGBT」ではなく、「LGBTI」になっていることであり、世界的にはインターセックス(性分化疾患)を示す「I」が入っているほうが一般的で、2007年の段階ではそれがすんなり輸入されていたことが分かる。

そこから「I」が落ちて「LGBT」になった事情は、一部の「I」当事者たちから強い要望があったためである。
前にも述べたように「LGBT」は政治的連帯を示す概念のため、「そういう人たちとは一緒にやりたくない!」といったホモフォビア(Homophobia 同性愛嫌悪)、トランスフォビア(Transphobia トランスジェンダー嫌悪)の人たちを一緒にする必要はない。

一般メディアで「LGBT」が使用されるようになったのは2012〜2013年頃からで、2015年以降、日本社会に広まり大きなブームになっていく。
そのきっかけは、2012年夏、『週刊ダイヤモンド』が7月14日号で、「国内市場5.7兆円「LGBT市場」を攻略せよ!」という特集を組み、同日発売の『週刊東洋経済』が「知られざる巨大市場 日本のLGBT」という特集を組んだことである。

ライバル関係にある二大経済週刊誌が、同日発売号で同様の特集を組む、そんな偶然がはたしてあるのだろうか。
三橋氏は、当初から「仕掛け人がいる」と考えていたが、ここで留意しておかなければならないのは、日本のマスメディアで「LGBT」に最初に注目したのが経済誌だったということである。
つまり経済的な視点、新たな経済市場(儲けるネタ)としての注目されたということになる。

人権的視点ではなく、経済的視点から始まったことは、その後の日本の「LGBT」ブームに影を落とすことになる。
なお、自治体で最初の使用例は、2013年9月、大阪市淀川区役所の「LGBT支援宣言」であった。

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