「あなたはゲイの先生に出会ったことがありますか?」
この質問に自信を持って「はい」と答えられる人がどれだけいるだろうか。大人になってからはともかく、子ども時代にゲイをオープンにする先生と会った経験を持つ人は、とても少ないだろう。
当然ながら先生の中にもゲイはいる。日本人口の7.6%がLGBTだとするならば、子どもの頃出会ってきた先生の何人かがゲイでも何ら不思議ではない。
にもかかわらず、現在、ゲイをはじめとするLGBTの先生に関する議論はあまりみられない。ここ最近のLGBTと教育に関するシンポジウムに参加してみても、「LGBTの先生」への言及はごく僅かだ。
そこで今回は、ゲイの高校講師である筆者の経験や、知り合いのゲイ・バイセクシュアルの先生から聞いた話を元に、「ゲイの先生が直面する3つの困難」を紹介しようと思う。
(1)生徒に嘘をつきたくないけど、”ゲイバレ”もしたくない!
ゲイに対する差別・偏見が強い社会においては、自己防衛の手段として”ゲイバレ”を防ぐための嘘をつかざるを得ないことがある。ゲイの先生が働く学校の中でもそれは同様だ。
しかし、学校の先生は子どもを相手にする職業であるがゆえ、時として「子どもの前で」”ゲイバレ”を防ぐ嘘をつかなければならない状況になる。「正しいことを教えたい」「嘘をつくのは悪いことだと教えたい」と考える先生にとって、この状況は複雑だ。「生徒に嘘はつきたくない!だけど”ゲイバレ”したくない!」という葛藤が生まれるからだ。
例えば筆者は、かつて授業中に生徒から「先生おかま?」と聞かれたことがあった。手振りが大げさだったためオネエタレントのように見えたのだそうだ。その時の私は、この不意を突く質問に対して、”ゲイバレ”を防ぎたい一心で、「おかまじゃないから!」と否定的な返答をしてしまった。これは今振り返ると失言である。生徒の前で嘘をついたばかりか(いわゆる「おかま」ではないという意味では本当のことを言っているが)、LGBTを否定する返答によって生徒の中の当事者を傷つけてしまった可能性があるからだ。
だからといって、生徒の前で”ゲイであることを否定しない”というのも、ゲイ疑惑を持たれるのが怖いため難しい。このように、ゲイの先生は「生徒に嘘はつきたくないけど、”ゲイバレ”もしたくない!」という葛藤を抱えることがあるのだ。(次回に続く)